日本では犯罪のフリーランス化が進んでいる。
本来出会うはずのない人間がSNSを通じ、互いを知らないまま凶行に及ぶ。
そこにあるのは短絡的な欲望という、極端に実質を欠いた関係性だけだ。歴史は存在しない。
警察の捜査は、あるいは法制度は、共犯者をまとめて捕らえるすべを磨いてきた。逮捕されたくなければ、共犯者に深い関係など無い方が良い。
近年、ドイツでは正反対の構造をもった組織が動いている。
この世で最も強い絆の1つである血の繋がり。
血縁集団による犯行、通称「氏族犯罪」だ。
2019年に起きた、ドレスデンのグリーン・ボールトという博物館の強盗事件。奪われたのはザクセン王国時代のロイヤルジュエリーだった。
現在開かれている裁判では、3人の被告が関与を認めている。
いずれも姓はremmo。彼らはレモ・クラン(clan=一族)と呼ばれる犯罪氏族だった。
レモ・クランの起源は南トルコとレバノンのアラブ系にさかのぼる。1970 年代から始まった移民受け入れによってドイツに移住した人々のうち一部が、定着したものの労働環境に恵まれなかったために犯罪組織化したと言われている。
ただし氏族全員が犯罪に手を染める訳ではないことは、ことわっておくべき事だろう。
類似の起源を持つ犯罪氏族は、首都ベルリンには20近く、他の州を含めると100を超えるという。
強い存在感を放つクランとして、アルツァイン、アボウ・チャカ、ミリーが挙げられるが、レモ・クランはグリーン・ボールトの強盗以前にもボーデ博物館から100キロの金貨を強奪しており、近年注目度を増している。
イタリアのマフィアや日本のヤクザなどに比べても、血縁関係を基礎とした連帯は強いと言われ、血の繋がりがない者が加入することは難しいという。
これが意味するのは、潜入捜査が困難を極めるという事だ。
そして血族による集団の常として、彼らには独特な価値観が存在する。
国家への憎悪と、法の軽視。法治国家としての常識は彼らには通用しない。
それはレモ・クランの女性たちが、息子たちに送ったという言葉に集約されるだろう。
「刑務所が男をつくるんだ」