防犯の図書館

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ピッキングの盛衰にまつわる表と裏の攻防

ピッキングの盛衰

2000年を中心に大流行したピッキング

その裏には、常に犯罪グループの姿がありました。

技術力を要するピッキングがどうして広まってしまったのか。新たな脅威に対して日本はどう対抗したのか。

ピッキングにまつわる表の出来事と裏の出来事を、まとめてお伝えします。

ピッキングが急増した1990年後半

ピッキングは1990年後半から2000年にかけて激増しました。

被害件数の推移から、その流行具合が見てとれます。下図は都内におけるピッキング被害件数の概算です。

都内ピッキング件数
参考:読売新聞 2003年2月13日

都内に限ったデータではありますが、1998~2000年に爆発的に増加しています。

この時期に一体何があったのでしょうか。 

ピッキング大流行の裏にあったもの

中国人犯罪グループの暗躍

拡散の背景には中国人グループの暗躍がありました。

元々ピッキングは特殊な工具と訓練が必要な、錠前技師の技術です。ピッキングツールという耳かきのような工具を使い、ドアのシリンダー内に鍵がある状態を再現しなくてはいけません。

ピッキングツール
画像引用:警察庁 警察白書  ピッキングに用いられる工具。先端にぼかし加工済み

被害が拡大するにはピッキングのノウハウを伝道する者が必要です。この伝道役を担っていたのが中国人犯罪グループ「蛇頭(じゃとう)」と言われています。

一説によると、この蛇頭はパチンコ店のロムをハッキングするために忍び込みの手口を覚え、その知識を活かしてよりリスクの少ない一般家庭への侵入へとシフトしたと考えられています。

 ピッキングの養成所を発見

1996年から雑居ビル等を対象とした大規模な「不法侵入・荒し」行為が散見されるようになりました。その現場から共通して見つかったのは鍵穴の奥にあるキズ、つまりピッキングの痕跡です。

警視庁の捜査員は犯行の異質さを確かに感じ取っていたと言います。それでも、まだピッキング対策に本腰を入れるまでには至りませんでした。

しかし1999年に行われた、豊島区にある中国人犯罪グループのアジトへの家宅捜索にて衝撃的な事実が判明します。そこで見つかったのは、ピッキングに使う工具と多数のドアノブ。アジトがピッキングの養成所と化していたのは明白です。

ピッキングできる人材がアジトで量産されていた。」

水面下にて進んでいた犯行グループの計画が、白日の下に晒されました。

 密談

2000年の春、ある会合の情報が警視庁の耳へ飛び込んできました。

それは横浜で開かれた中国人犯罪グループのリーダー各による密談。読売新聞によって、その内容が報じられました。

2000年春。中国人犯罪組織のリーダー格8人が横浜に集まり、グループの犯罪の中でどれが一番効率的かを協議したという。

(中略)

最後に、組織の頂点に立つ男が宣言した。「これからは警戒が薄いマンションのピッキングでいこう」

読売新聞 2003年2月13日

内部協力者によってこの密談の情報は警察庁に渡ることとなります。しかしもはや歯止めが効かないほど事態は悪化していたのでしょう。この2000年にピッキングの認知件数は歴代最高の29.211件に達してしまいました。

手を握った中国人と日本人の犯罪者

ピッキング流行の原因を中国人だけに帰することはできません。ちょうどピッキングが爆増していた時期、組織的な窃盗事件において中国人と日本人の混合グループが摘発されています。

参加していた日本人の多くを占めていたのは、暴力団ではない一般人。国内で普通に暮らす人々が中国人の組織犯罪に加担するという恐ろしい図式が出来上がります。

現地感覚がある日本人の協力もあって、ピッキングは勢力を増していきました。

美和ロックのディスクシリンダー錠が製造中止に

2001年3月31日、錠前メーカー「美和ロック」は自社のディスクシリンダー錠の製造中止に追い込まれました。この錠は構造上の特徴からピッキング耐性が低く、窃盗団に狙われてしまったのです。

窃盗団は基本的に鍵のタイプを熟知しており、鍵穴を見て開けられるか判断します。そこで集中的に狙われてしまったのが、このディスクシリンダー錠でした。

ディスクシリンダー錠
画像引用:カギ本舗 美和ロックのディスクシリンダー錠。

ディスクシリンダー錠の特徴は「くの字縦穴」。そのため縦の鍵穴は危険と言われることもあるのですが、しっかりピッキング対策が施されたものもあるため一概に言いきる事はできません。

打ち出された対策

錠前メーカーの技術力を発揮

自社製品の製造中止という辛酸をなめさせられた美和ロックは、耐ピッキング性能の高い「U9(後期型)」を開発。ディスクシリンダーから発展させた、ロータリーディスクシリンダーという機構によって、高い防犯性能を実現しています。

また、各社からディンプルキーを始めとした防犯性能が高い鍵が販売されるようになっています。

ピッキング法の制定

2002年9月1日、国はピッキングの脅威に対抗するためピッキング法を施行しました。

特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律(いわゆるピッキング法)】

特殊開錠用工具の所持や指定侵入用工具の隠匿携帯を禁じる。

特殊開錠用工具:ピッキングサムターン回し用の工具
指定侵入用工具:法令で定められたサイズのドライバー、バール、ドリル等

これら対策の甲斐あってか、ピッキングの件数は徐々に減少していくこととなります。

2000年以降減少したピッキング

ピッキングの認知件数は2000年をピークに減少に転じました。下図は全国におけるピッキングの認知件数です。

全国のピッキング認知件数
参考:警察庁統計

なお2016年以降になると、ピッキング件数はサムターン回しと合算して「特殊開錠用具関係」として公表される程度の扱いとなっています。それも2020年現在では120件にまで減少しました。

2015年の警察庁統計では、戦後最小の刑法犯認知件数を更新したとして特集が組まれました。その中で2002年~2015年の間で最も減少した空き巣の手口はピッキングであるとされています。

 

かつて猛威を振るったピッキングも、今やその勢いを失いました。しかし犯罪グループは常に新たな手口を模索し続けます。鍵穴をめぐる攻防はこれからも続くことでしょう。

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